【新作ラノベ先読み感想文レビュー】
今回は7月17日に刊行された『明けの空のカフカ』です。みなさんの感想も聞かせてください!
老人たちばかりの浮遊洞窟のただ一人の少女カフカが、祖父の飛行機で外の世界に飛び出して、いざ冒険の始まり!……って感じで始まる本作なのだけど、正直な話、未知への世界の『ワクワク』よりも「え……そんなことして大丈夫?」という『ハラハラ』が勝ってしまう!
閉ざされた世界から抜け出した少女と、青い空と眩しい太陽を背景に飛行機が空を舞う姿はこの夏にぴったりな爽やかさ! これぞまさにジュブナイルの王道! なのにそんなに心配ばっかりしてちゃあダメだよとは思う。でもねえ、これで主人公が悪ガキだったら「多少痛い目を見て反省しやがれ」って突き放した気持ちにもなるんだけど、カフカちゃんは本当にいい子なんですよ。
かつての祖父の愛機で無許可で空へ飛び出すっていうパンクな一面もあるんですけど、子供が自分しかいない洞窟で、彼女がどのような思いを抱えて生きてきたのかがしっかり書かれているから俺は彼女を責められない……どうか無事でいてね。

そんな周囲の大人や読者の心配をよそに、外の世界へ降り立ったカフカを待ち受けるは飛行機を駆った派手な大活劇! ……とばかりはいかず、配送局のお手伝いをしたり、獣人の子と友達になったり、祖父の友人に会いに行って昔話を聞かせてもらったりと、地に足のついた日常が描かれていく。でもカフカにとってこれらの体験は初めて尽くしで、どれもキラッキラに輝いているのだ! 冒険家の祖父が遺した『君の人生の全てが尊い冒険なのだ』というメッセージを全力で体現している姿は本当に眩しく、きっと読む人すべてが彼女を好きになるはず!
ジュブナイルというジャンルに対して「子供が読むもので自分には関係ない」と考える人もいるだろう。だが、本作はカフカと同年代の子供たちはもちろん、大人の読者も「子供の頃の気持ちに戻る」なんて形ではなく、ちゃんと大人の視点から楽しめる良質な一作だ。
文:柿崎憲
ざっくり言うとこんな作品
・飛行機で空を舞い外の世界へと飛び出した少女の、新しい出会いと成長を描いていく王道ど真ん中のジュブナイル!
・周りを気遣う優しさと年相応の子供らしさを併せ持つ主人公カフカの姿が、読んでいてついつい応援したくなる!
・空に浮かぶ浮遊洞窟、獣人だらけの外の世界、現実とはやや異なるメカニズムの飛行機など、世界の秘密を握る数々のSF設定が魅力的!
主要キャラ紹介
カフカ
老人だらけの浮遊洞窟で暮らす唯一の子供。獣人のハヤテと出会ったことや冒険家の祖父が記した書物を読んで、外の世界へと飛び出す決意をする。趣味はラジオへの投稿。
ハヤテ
配送局に勤めるイヌ類の青年。カフカの祖父に手紙を届けるため浮遊洞窟を訪れてカフカと出会う。面倒見のいい性格で、カフカの祖父である冒険家のシア・アリムスの大ファン。
クレオ
カフカと同年代で配送局で働くネコ類の少女。やや警戒心が強く、カリカリした態度をとってしまうが本当はいい子。語尾につい「にゃ」をつけてしまうことを気にしている。
ヘルガ
ハヤテたちが勤める配送局の局長でキツネ類の獣人。仕事への意識は高いが、突然地上にやってきたカフカを温かく受け入れる優しさの持ち主。結構かわいいパジャマを着る。
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明けの空のカフカ★第31回電撃小説大賞《電撃の新文芸賞》受賞作★
カフカは空が見えない浮遊洞窟内にある老人ばかりの村で暮らす唯一の子ども。外の世界に憧れを抱きながらも、村に縛られる日々を過ごしていた。
ある日、地上からの来訪者・ハヤテが現れる。なんと彼は、ヒトとは違う犬の特徴を持つ獣人だったのだ。ハヤテの語る刺激的な地上の話に感化されたカフカは、ついに村人たちの反対を振り切り――亡き祖父が遺した飛行機〈コチ三〇六〉を駆り夜明けの空へと飛び出していく!
温かく見守ってくれる大人たちや同世代の友達と出会い成長するカフカは、やがてこの世界のヒトたちの間に起こった悲しい過去を知ることになる。だけどカフカは飛ぶことをやめない、知ることを諦めたりしない。だって――私たちの人生の全てが冒険なのだから!
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