【新作ラノベ先読み感想文レビュー】
今回はドラゴンノベルスから8月5日に刊行された『ガラス工房の錬金術師』です。みなさんの感想も聞かせてください!
ガラス工芸品って、実用性と芸術性を兼ね備えた偉大な発明ですよね。ライトノベルにおいて、そんなガラス工芸をモチーフに扱った作品ってかなり珍しいんじゃないでしょうか。
このモチーフの何がいいって、ガラスアート体験などで実際に私たちも職人の技の一端に触れることが出来ますし、そういった体験をしていなくてもテレビやYouTubeの動画などで制作の様子を見る機会があったりして、主人公であるルオが「今どんなことをしているか」が視覚的にイメージしやすいことだと思うんですよね。
火と水を使った美しい光景が読んでいるうちに脳内で広がっていき、神秘的な雰囲気をちょっとだけ身近に感じられる……そんな読書体験が、個人的に本作のユニークなところだったかなと思います。
特に目を惹かれたのは、主人公のルオの目線が見事に読者の目線と一体化していることでした。生前の記憶を取り戻したルオが、転生した先の『魔法や精霊が存在するファンタジー世界』を学び、様々なものに触れていくたび、読者もまた同じようにその驚きや興奮を共有できるよう丁寧に描かれている雰囲気満点の文章たるや!
手に汗握るバトルのような派手な展開がなくたって、こんな風に物語世界へいっしょに連れて行ってもらえる感じがするファンタジー作品に出会うと何だか無性に嬉しくなりますよねぇ。

ルオの夢であるガラス工芸作家への道、これがまたストーリーラインを思いがけない形で拡げていることも魅力的です。ガラス工芸を始めるには素材、素材を加工する技術、技術を使う人間等々が必要になりますよね。
でも領地は貧乏で、なにもない! 0から1を生むにしても、まずなにを生めばいいものか!? ここから始まる苦闘がまた見どころいっぱいなのですよ。なにせルオがめげないキャラクターですし、そうだからこそコランダム始めいろいろな人たちと“縁”を結んでいき、問題をクリアしていく展開が非常に映えます。
内政シミュレーション的なおもしろさに人間ドラマがプラスされて、まさにこの作品ならではの魅力を生み出しているのです。
ぎゅっとまとめて言うなら「地に足の着いた異世界スローライフ」、迷うことなくお勧めいたしますよ!
文:髙橋剛
ざっくり言うとこんな作品
1)ガラス工芸作家として最高の作品を生み出す! 一切迷うことなくその夢に向かって突き進む主人公ルオのまっすぐさが気持ちいい!!
2)なにもない領地になにかを生み出していく発展の物語――結果のみならず過程がきちんと描き込まれているからこそ説得力があっておもしろい!
3)主人公を取り巻くキャラクターにもしっかりした背景がある! それによって深まる人同士の関係性が生むドラマは極上のひと言です。
主要キャラ紹介
フルオライト・ルヴェール
通称ルオ。貧乏領主の子息だが、5歳のときのラヴァとの出会いをきっかけにガラス工芸作家だった生前の記憶を取り戻し、この世界でもその夢を追求し、叶えようと奮起する。

ラヴァ
火の精霊。 幼いルオの魔力を吸い、契約を結んだ。後のあることをきっかけに受肉、実体を持つこととなる。どうやら精霊王から気にかけられているようだが……

コランダム・ヴァンデラー
最高峰の称号を持つ錬金術師で、錬金術師ギルドの総ギルド長。精霊と契約を結んだルオに興味を持って弟子とし、導いていく。酒好きで、自身も酒精霊カルヴァと契約を結ぶこととなった。

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