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著者・ 築地俊彦への独占インタビュー! 『ガンダム』シリーズのパロディ作品を執筆する上での苦労とは?(上)

ドラゴンノベルス
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角川スニーカー文庫
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2025/08/29
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 ガンダムオタクの女性が交通事故に巻き込まれ、気がつくとアニメ『機動戦士ガンダム』のキシリア・ザビになっていた。これで宇宙世紀(UC)も書き換え放題、まずはシャアに吹き飛ばされる運命を変えてやる! ……なんてことにはならず、むしろ正史を守るため奔走するという物語が、築地俊彦による小説『機動戦士ガンダム 異世界宇宙世紀 二十四歳OL、転生先でキシリアやってます』(矢立肇・富野由悠季原案)だ。
 ガンダムオタクだけあって転生したキシリアは、世界が自分の知っているUCと違っていた歴史を、TVシリーズや劇場版の『機動戦士ガンダム』と同じストーリーに修正しようとする。悲惨な末路から逃れようとする悪役令嬢の逆を行く設定を、あろうことかガンダム世界でやってしまった前代未聞の小説がどうして生まれてしまったのか? 8月29日にスニーカー文庫から文庫版が登場する本作を書いた築地俊彦に聞いた。

取材・文●タニグチリウイチ

文庫版発売記念スペシャルインタビュー(上)



最初のうちは、どうやったらシリーズファンに怒られないか
ビクビクしてましたが、途中からもう開き直ってましたね。


―――築地俊彦先生といえば、TVアニメ化された『まぶらほ』(ファンタジア文庫)や『けんぷファー』(MF文庫J)といったライトノベル作品をこれまで執筆してこられましたが、『機動戦士ガンダム』について書かれたことはあったのですか?

築地俊彦(以下、築地):ないですね。ガンダムに関わったことは多分ないです。

―――それが、いきなりガンダム世界の“正史”とも言えるUCを取り戻そうとするキシリア・ザビの物語に挑んだ形です。この『二十四歳OL、転生先でキシリアやってます』はどのような経緯で書くことになったのでしょうか。

築地:『艦隊これくしょん ー艦これー 陽炎、抜錨します!』シリーズを出していたファミ通文庫で編集者だった人から、「ガンダムエース」でちょっとガンダムを書く気があるかと言われて書きますよと答えたんです。僕とは縁ははないなと思っていたんですけど、いつかやりたいなあと思っていたのでOKしました。実は『まぶらほ』のイラストを描いてくれた駒都えーじさんがガンダムが大好きで、キャラよりもメカという人でよく話をしていました。

―――最初から「ガンダム×悪役令嬢」の組み合わせだったのですか?

築地:編集の人から話があった時に、キシリアを悪役令嬢にするのはどうだと言われて、頭がどうなっているのかなって思いました(笑)。そこからブラッシュアップというか中身を考えていったのは僕ですね。

―――悪役令嬢ものというと、ゲームでヒロインを虐めていて最後に断罪される令嬢に転生した主人公が、悲惨な最期から逃れようとする設定ですが、本書は発想が逆。キシリアが割と穏健だったザビ家を煽って一年戦争に持っていこうとする展開で笑いました。

築地:UCを壊すわけにはいきません、そんなことをしたら僕が集中攻撃に遭います(笑)。まあ、確かに一般的な悪役令嬢は、今ある歴史を変えるとかぶっ壊すといったものが多いですが、どう考えても正史ではないところにガンダムオタクが行って、正史に戻すんだとやった方が、話が綺麗だなと思ってそう書きました。

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©️築地俊彦・NOCO・矢立肇・富野由悠季 ©️創通・サンライズ

―――キシリアというキャラについてはどのような印象を持っていました?

築地:なんでこの人、変なマスクしているんだとか(笑)。

――――本書でも紫色の服装といっしょにネタにされてますね。そのキシリアが上巻ではまだ13歳の子供として登場して、10年後のUC0079が舞台となった下巻でも上巻と同じ姿で登場します。何か理由が?

築地:商業的な理由もありますが、普通の女の子の方が自分として書きやすいかなと思ったのが理由です。

―――転生してきたキシリアがジオンのモビルスーツ開発に口を出すところは、ガンダムオタクの雰囲気が良く出ていました。二足歩行にするとかもモビルスーツと呼べとか言ってジオンの兵器開発が“間違った”方向に行かないように頑張りました。

築地:「キシリアマシン」という名にしてはと言われて「モビルスーツです。略称はMS」と言うところですね。やはりモビルスーツは変えてはいけないですよね。キシリアがデザインや装備を細かく説明するような描写も考えましたが、小説で細かくメカの話を書いても伝わりづらいので、ここではネーミングにこだわっているように描きました。「ザク」とか「ドム」とか。人型にして名前をザクと言うような感じの方が、読者の心にもキシリアのこだわりが一発で分かるんじゃないでしょうか。

―――モビルスーツの関節が二重になっていないとか、これでは脚が曲がらないとか言い出したらきりがありませんからね。

築地:最初のザクのプラモデルは足首が一体成形で、曲がる曲がらないどころの話ではなかったですから。あと、モビルスーツにこだわったのが、自分がモデラーでガンプラ好きだったこともありますね。なかなか買えなくて苦労して手に入れて作ってました。キシリアのモビルスーツへの思いも、そうしたファン目線でどのように振る舞うだろうかということを考えて書いたところがありますね。

―――ガンプラは今も作られているのですか?

築地:最後に買ったガンプラは『機動戦士ガンダム0083』に登場した「ガンダム試作3号機デンドロビウム」だったと思います。今は高くなって手に入りづらくなっているので遠ざかっています。

―――主人公ではありませんが、熱烈なファンが大勢いるUCをネタとして扱うのは怖くありませんでしたか? 間違ったことや酷いことは書けないとか。

築地:最初のうちは、UCという決まっている設定の中をどのようにしたらすり抜けられるのかをいろいろと考えていましたが、途中からもう開き直ってましたね。

―――ララァなんてすっかり悪役ですしね。

築地:ララァが下巻で敵役になったのは、正史に戻したいのだったら私を乗り越えてみなさいというような存在が欲しくて、それならララァだとなりました。キシリアよりもララァが先を行っていて、焦りながらキシリアが戻そうとする構図ですね。個人的にエキセントリックな人間が大好きなので、この小説に出てくるララァは大好きです。サイド6の湖で白鳥がなかなか落ちてこないので、猟銃で撃つようなララァも考えたんですが、それはやり過ぎだと思って止めました。

―――それは画期的すぎます(笑)。エキセントリックになったララァとは反対にシャアはとことん良い人というか平凡過ぎる人になっています。

築地:シャアについては、もう良い人にしようということだけですね。シャアがガンダムの中で人気があるキャラだというのは分かっているんですが、魅力的かと言うと僕としてはどうかなあというところがあって、それなら子供の頃から良い人で、キシリアに巻き込まれていくようなシャアがいる世界があっても良いんじゃないかと考えました。父親のダイクンが死んだのも、ザビ家に暗殺されたのではなくただの病死だと思っているから、最後までキシリアに恩義を感じている感じです。

―――それでもキシリアはアニメと同じように、シャアにUCの歴史を再現させようとします。

築地:そこでちょっとシリアスになって、シャアのカッコ良いセリフが飛び出すんですが、それは『伝説巨神イデオン』のセリフでしたというオチにしてというのは狙ってました。

―――結末がどうなっているかは読んでのお楽しみですね。結果としてとてもさわやかな物語になったという印象です。

築地:担当の人からも良いオチでしたと言われましたね。今時あまり悲惨なオチは受けがよろしくないので、誰も傷つかないところが良かったですと。



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