40歳を前に見つけた人生の三本柱。100年後にも残る“自分の声”でつくるエンタメの未来【アンバサダー/梶裕貴】

一生挑戦を続けていくライフワークに出会った
──梶さんが、今チャレンジしていることを教えてください。
梶裕貴(以下:梶):音声AIプロジェクト「そよぎフラクタル」です。僕の声を宿したキャラクター『梵(そよぎ)そよぎ』を軸に、プロアマ問わず、誰もが楽しみながら向き合えるモノづくりの輪を広げています。これまで20年続けてきた声優業と同じように、僕はこのプロジェクトにも魂を捧げています。僕の人生は、声優、「そよぎフラクタル」、子育ての三本柱。何を差し置いても、この3つに力を入れていきたいと思っています。
──まさにライフワークですね。
梶:そうですね。原点となる構想を考えたのは、4、5年前。発売にいたるまでにも紆余曲折がありました。声優業は、作品を仕上げていく工程のほぼ最後のパートを任せていただくお仕事ですが、自分でゼロからプロジェクトを立ち上げてみると、その段階に至るまでにどれだけ多くのステップを踏まなければならないのか、身に沁みてわかりました。スタッフさんへの感謝とリスペクトも、より一層増しましたね。この「メクリメクル」だって、今日のインタビューを迎えるまでに相当長い準備期間があったはずですよね。そういった苦労がわかるようになりましたし、形になること、人に届くということが、より感慨深く感じられるようになりました。

声優業一本では逃げ場がなかった。情熱を注ぐ先が増えたことがプラスに
――「梵そよぎ」は梶さんの肉声をベースにしたAIキャラクターです。AIで梶さんの声を再現できるようになりましたが、声優としてはこれまでと変わらず役に向き合っていくのでしょうか。
梶:声優としての活動に全力を傾けるのは、当然これからも変わりません。自分にできるすべてでもって、求められた要求に120%で返す。とにかく全力を尽くすことで、オファーしてくださった方、作品をご覧になる皆さんに満足していただきたいですね。そして、その積み重ねこそが次につながっていくはずと信じています。ただ、声優業は自分の努力だけではどうにもならないこともあるので、うまくいかない時は苦しくなることも。そんな時、声優業一本ではなく、そよぎがあること、子育てがあることで、神経質にならずに済むようになりました。
――「うまくいかない時」というのは、どういう局面ですか?
梶:声優は、オーディションを経て役をつかむ仕事。「ぜひ、この人にお願いしたいです」というご指名がある場合を除いては、クレジットの5番目くらいまでの役柄は基本的にオーディションで決めることが多いです。新人の頃はオーディションを受ける機会すらなかったので、チャンスをいただけること自体ありがたいと感じますが、やはり結果が出ない時間が続くと息苦しさを感じますね。
――え、梶さんでもオーディションを受けるんですか?
梶:もちろんです! 1年で50役くらいオーディションを受けて、1、2役決まるかどうかという年もありました。自分がいくら頑張っても、どれほどその役に思い入れがあっても、受かるとは限らないんですよね。それに、収録曜日・時間が重なってしまう作品だと、物理的にスケジュールの都合で出演できませんし、強いインパクトの残る役を演じたあとは、イメージが被らないように同じような配役は避けられてしまうことも。いろいろな事情があるからこそ、役との出会いは、まさにご縁。そうした世界で生きていくには、そのストレスやフラストレーションをかわす手段が必要だと思っていました。
――気持ちを落ち着けたり、思考を整理したりする場所が、梶さん個人にとっても必要だったということですね。
梶:僕は休日を、ダラダラとなんとなく過ごすと、「ああ、1日を無駄にしちゃったな」と後悔してしまうタイプなんです。常に意味のあること、価値のあることをしたいと思ってしまう。だからと言って、空いた時間に自分がやりたい仕事をできる職業でもありません。なので休みが続いた時期などは、何かしたいけれど何もできない自分に焦燥感を覚えることもありました。でも、今は愛と情熱を注ぐ先が増えたことで、そういった息苦しさがなくなりましたね。プロジェクトと子育ては、自分にとって大きなプラスだなと感じています。
ユーザーを巻き込んで広がるクリエイティブの連鎖に刺激を受ける日々
――梶さんは、これまでにもエッセイの執筆やアパレルブランドのプロデュースなど、さまざまなチャレンジをしてきました。一方「そよぎフラクタル」では、ソフトを完成させて終わるのではなく、ユーザーがそのソフトを使って楽曲や作品を世に送り出し、連鎖が生まれています。そこに、これまでとは違った刺激を感じているのでしょうか。
梶:自分ひとりでやれることには限界があります。でも「そよぎフラクタル」でなら、ユーザーの皆さんが僕には思いつかないこと、実現できないことを形にしてくださるんです。梵そよぎというキャラクターが核となっていますが、あとはつくり手の自由。だからこそ、思いもよらないクリエイティブの広がりが生まれていて、日々刺激を受けまくっていますよ。僕も負けないように、いい作品・いい企画を送り出さなくてはいけないなと気が引き締まります。ノベライズやコミカライズ、ゲーム化など、新たなコラボレーションもたくさん企画しているので、ぜひ今後もご注目いただきたいですね。

人生において、何よりも大事なのは“ご縁”であると実感
――梶さんが新たなチャレンジをする時には、どんなことを大切にしていますか?
梶:僕の人生において、何よりも大事なのはご縁だと考えています。もちろん努力を続けなければ、チャンスが回ってきた時に力を発揮できませんが、自分ひとりでチャンスをつくるには限界があります。チャンスの始まりの渦は、これまで出会ってきた方々とのつながり、関わり合いの中から生まれるもの。しかも、それは決して狙って生み出せるものでもありません。フィーリングが合い、丁寧に信頼関係を築き、相手が困っている時には力になりたいと思えるのがご縁。人が生きていくうえで、とても大切なものだと思っています。
――新しいことを続けるうえでの原動力、モチベーションを維持するための秘訣はありますか?
梶:僕の場合、モチベーションは無尽蔵に湧いてくるので、どちらかというと周りの人たちを困らせてしまっているくらいな気がします(笑)。好きなことや趣味って、たとえどんなに疲れている時でもやれちゃいますし、むしろその活動からエネルギーをもらえますよね。声優の仕事をして、ふーっと息をついた時に新しいアイデアが浮かんでくることもありますし、疲れた時には、ふたたび立ち上がる原動力にもなります。声優業以外に向き合う先があることでリフレッシュでき、声優としてのお芝居にプラスの影響を及ぼしたり、新たな発想が浮かんだりすることも。とてもいいスパイラルが生まれているなと感じています。
――冒頭で人生の三本柱のお話をされていました。今後チャレンジしたいことはありますか?
梶:やはり、その三本柱に尽きますね。どれもずっと続けられることですし、やっていきたいこと。声優は、職業、性別、年齢、さらに言えば生物の垣根も越えられる仕事です。まもなく僕は40歳になりますが、先輩がたを見ていると50代、60代なっても10代や20代の役を演じていらっしゃる。それって、すごく夢がありますよね。僕も死ぬまで現役で、自分もみんなも楽しく仕事をできる環境をつくっていけたらと考えています。その一方で、たとえ僕の体が動かなくなっても「そよぎフラクタル」、そして「梵そよぎ」の存在によって僕の声は残ります。100年後、1000年後に、人は僕の声のデータをどのように使い、どんな作品を生み出すのか。この先の未来に思いを馳せると、壮大なロマンを感じます。
――自分にとって本当に必要なものが整理されたんですね。
梶:そうですね。若手の頃は、とにかく声優のお仕事をたくさんやりたい! と後先考えず、がむしゃらに進んできました。20代後半から30代前半は、どうすれば声優として唯一無二の存在になれるのか、と試行錯誤を重ねた時期。映像作品や舞台など、これまでとは違う表現の場を経験し、学びを重ねてきました。もちろん、これからも機会があればさまざまな作品にチャレンジしていきたいですが、今後はこれまでのインプットを生かして、声優・梶裕貴の完成形をつくっていきたいですね。年齢を重ねるにつれて、自分の思い通りに心と体を使える時間は限られてくるものなんだなと実感する機会が増えてきました。そろそろ自分が本当にやりたいことを絞り、そこに情熱とエネルギーを傾けなければ、それらを達成することはできないだろうなと。40歳になるタイミングで、「この夢と目標があれば充実した人生を送れるだろう」という三本柱に出会えたのは、とても恵まれているなと感じています。

※特別インタビュー第2弾は2025年7月29日(火)に公開予定です
取材・文●野本由起撮影●渡部伸
ヘア&メイク●中山芽美(エミュー)
スタイリング●帆苅球

梶裕貴(かじ・ゆうき)
1985年9月3日生まれ。2004年、声優デビュー。『進撃の巨人』エレン・イェーガー役、『僕のヒーローアカデミア』轟焦凍役、『ハイキュー!!』孤爪研磨役ほか、出演作多数。2018年、著書『いつかすべてが君の力になる』(河出書房新社)を刊行。2024年、声優20周年を記念してAI音声合成プロジェクト「そよぎフラクタル」を立ち上げる。2026年3月8日(日)には東京ガーデンシアターにてAIキャラクターLIVEイベント『そよぎEXPO』を開催予定。2025年8月31日(日)までクラウドファンディングも実施中。
公式Xアカウント
そよぎフラクタル
『CeVIO AI 梵そよぎ ソングスターター』19,800円(税込)
『CeVIO AI 梵そよぎ トークスターター』16,980円(税込)
対応言語:日本語
企画・制作・販売:そよぎフラクタル
対応OS:Windows 11 / 10 (64bit 日本語版または英語版)
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