『冴えカノ』から『あそびのかんけい』でラノベ業界に凱旋。イラストレーター・深崎暮人が今、挑むチャレンジとは?【あなたの #チャレ活】

仕事では「こういうのでいいんだよ」というのを座右の銘にしていて
――エンタメの総合情報を発信する新メディア『メクリメクル』の創刊記念インタビューということで、まず最初にお聞きしますが、アニメやマンガ、ライトノベル(ラノベ)など、普段よく楽しんでいるのはどんなコンテンツですか?
深崎暮人(以下:深崎):最近は実写が多く、特に海外の映画やドラマを観る事が多いです。
2次元方面ではアニメからはちょっと遠ざかっているのですが、マンガに関しては大人買いをして色々読んでいます。電子書籍で一気に爆買いするのがストレス解消になっているんだと思います。
あとは、試し読みにつられて買う事も多くなって電子書籍のストックはかなり増えてしまいました。
――電子書籍の爆買いとなると、新しい作品に限らず、懐かしい作品まで?
深崎:そうですね、もうざっくばらんに。紙の媒体で読んでいた作品も電子になってから買い戻してます。他にはラノベのコミカライズ作品が活字より入りやすいので時間短縮もできて助かってますね。コミカライズを読んでからノベルを買うみたいな流れで……。なろう系から現代物までジャンルは関係なくなんでも読んでいます。
――楽しんだコンテンツから受けた影響が、ご自身のお仕事に反映されたりはしますか?
深崎:自分の場合は、「売れてる作品が売れてる理由」をチェックしてしまいます。自分が好きなものと、世間のトレンドのズレが発生していないか、というのを意識しつつ、コンテンツを楽しんでいます。そのバランスを踏まえた上で、「こういうのでいいんだよ」というのを座右の銘にして仕事に反映するようにしてるんです。
昨今は多様性の時代ということもあって、様々なジャンルの作品が増えたと思います。尖った作品も良いとは思いますが、「こういうのでいいんだよ」という作品も大事にしていて……。自分の好みとしてはいわゆる王道作品なので、こういうのでいいんだよという安心感がある作品を皆さんに提供していきたいです。
――コンテンツを楽しむ際には、どんな要素を重視していますか?
深崎:長すぎずしっかりと完結している作品が好きですね。あまり長いと、ついていけなくなっちゃうんです。年のせいですかね(笑)。
そういう意味では長くて途中で離れてしまうよりは、短くても終わりがしっかりしている作品を重視します。あとは、完結したのに続編を作って続けてしまう作品っていうのは、個人的にはあまり好みではないですね。
自分の作品でも……例えば『冴えない彼女の育てかた』(冴えカノ)は、(『冴えカノ』原作者の)丸戸さんをはじめ、関係者や作品を支えて頂いたファンの皆さんのおかげで、しっかりと完結させていただくことができましたし、自分も画集を出したところで区切りがついているので、正直なところそっとしておきたいなと思ってます。単発の周年記念イラストなんかであれば喜んで描くのですが、こういうのはきっと足りないぐらいが丁度良いのかなって。


――ビジュアル面ではなく物語、ストーリー性が重要ということですね。
深崎:そうですね。あまりビジュアル面にばかり注目して見ると、仕事やってるみたいになっちゃうんで(笑)。そうすると色々考えて脳が疲れてしまうので、単純にコンテンツを楽しみたい場合は、自分の職種とは違う分野に重きを置いて楽しむようにしてます。
だから最近はアニメより実写の方がビジュアル面で仕事に直結せず楽しめるので、見る機会が増えたのかもしれませんね。
昨今のラノベ業界のイラストって、すごくレベルが上がってますよね
――今年5月に第1巻が発売されて話題のラノベ『あそびのかんけい』ですが、今回のお仕事で深崎さんが「チャレンジ」していることはありますか?
深崎:当たり前のことなんですが、無茶なスケジュールを組まない、徹夜をしない……です。
『冴えカノ』の頃……特に終盤は、原作以外にもアニメ関連の作業も並行していて、それで無理をして心身ともに疲弊してしまいました。特に良くなかったのが徹夜作業で、健康面もそうですが、クオリティ低下にも直結してしまい悪循環でした。
ラノベの挿絵作業の流れって、締め切りの都合上、大体カラーイラストの後にモノクロイラストの作業になるんですが、スケジュールが崩れると、最後のモノクロ部分にクオリティのしわ寄せが来ちゃうんですよね。『冴えカノ』では描きこみが少なくなったり、イラストの数も少なくなったり、振り返ってみるとモノクロイラストに甘えが出ていたと思います。
今作『あそびのかんけい』では、モノクロイラストこそ大事にしたいと思っています。
――『冴えカノ』の頃から技法を変えたり、というようなことでしょうか。
深崎:文章の邪魔にならないような、マンガ的表現とCGイラストの中間のような挿絵を目指しています。元々はマンガ的な枠線やトーンを使った挿絵が好きなんで、冴えカノの頃はそちら寄りの作風になるように意識してました。
ただ、改めて見直してみるともう少しアップデートをしないと埋もれてしまうなと思い、今作から描き方を変えました。その甲斐あって、葵さんや担当編集さんからは「前後の動きを感じさせる絵」だと好評をいただきまして……。自分ではまだ動きが足りないと感じていただけに、うれしい感想でした。
動きのある絵といえば、マンガ家さんやアニメーターさんの描く挿絵にはかなわないんですよね。具体的なお名前は伏せますが、現在ラノベ業界で活躍している方で、上手いなぁって思う作家さんは大体マンガやアニメのお仕事もされてる方だったりしますね。羨ましいです。


――『生徒会の一存』『ゲーマーズ!』の葵せきな×『冴えカノ』の深崎暮人というのは、特にファンタジア文庫の読者にとっては夢のタッグではないかと思います。
深崎:ファンタジア文庫のラブコメで言えば確かに、客観的に見てもそうなのかな……。作風的にも一緒にお仕事をする前から葵さんとの相性は良いと思っていました。実際にご一緒してみて、葵さんの原稿を拝読させていただくと、一気にモチベーションが上がって読むだけでキャラクターが浮かんでくるというか、頭の中で動き出すというか。おのずとこちらから、何でもいいから描かせてください! と言いたくなるぐらい……作品を通して尊敬してます。
自分の場合、お仕事ご一緒する際、そういったリスペクトの感覚を大事にしてます。丸戸さんの時にももちろん、そういう感覚はあったと思います。正直『冴えカノ』が終わって、相性が良さそうな作家さんと再び出会える確率は低いだろうと思っていたので、ファンタジア文庫さんから声をかけていただいたのはすごく光栄だと思うし、うれしかったです。
ひとつの作品が終わっても編集部のみなさんと良好な関係が続いていてよかったなと思いました。
そしてラノベ業界に久しぶりに戻ってきたのですが、まわりを見回してみると、だいぶ自分の中の時が止まっていたんだなと……。
まず感じたのが、『冴えカノ』の頃と比べても、電子書籍や感想を投稿するSNSが当時より活発に機能しているなと思いました。昔は意識しなかったのですが試し読みの大切さも実感しましたね。カバーや口絵のイラストが、早い段階でweb上に露出してしまうので、今作からその点を意識して挿絵の構成を考えるようになりました。モノクロの挿絵も2〜3枚はweb上に掲載されるので、冒頭3枚は他に比べてイラストの密度を高くして印象に残るようにしてます。
『冴えカノ』の頃とは違う立ち回りに切り替えたというのも自分にとっては新しいチャレンジですね。
――試し読みは、購買意欲につながるところですからね。
深崎:先ほどもお話をしましたが、モノクロイラストの描き方も、昔はトーンを使っていましたが、今作からグレースケールに切りかえました。モノクロイラストを流用してPVが作られたりするので、トーンだと対応しきれないなと思って。とはいえ挿絵としてはベタ(黒塗り)を活かした方がメリハリがついて好きなので、ベタも活かしつつグレースケールも使って良い感じに落とし込めたかなと。
また、昨今のラノベ業界のイラストって、すごくレベルが上がってますよね。特にカラーイラストはとても上手な方が増えていて……。正直、今の自分では他のイラストレーターに負けている部分が多いと感じてます。モノクロイラストは時流に合わせてアップデートできたとは思うのですが、それでもまだまだだと思いますし。カラーイラストも含めてレベルをもっと上げないといけないなと感じています。
――『冴えカノ』の頃も、アップデートというお話をよくされていましたね。
深崎:当時からアップデートはしてたつもりだったのですが、そこから数年経って……コロナ禍を経て以降、フレッシュでエネルギーに溢れたクリエイターが増えたような気がします。イラスト業界も、この数年でさらに進化したと思っています。
1巻ごとの驚きみたいなものをイラストで提供できるように心がけています
――これまでのお仕事で、印象に残っている「チャレンジ」はありますか?
深崎:『冴えカノ』では、ひととおりのことは体験させていただいたなと思います。アニメの本読みやアフレコにはほぼ毎回行っていましたし、ラジオやオーディオコメンタリーにも参加させていただいて、絵を描く以外のことに色々とチャレンジさせていただきました。他にはグッズ制作や宣伝に関する打ち合わせへの参加も多く、どのような流れで広告やグッズが展開されていくのかがわかるようになって、勉強になることが多かったです。そして、その経験が『あそびのかんけい』の展開にもつながっているんじゃないかなと思ってます。
続巻の発売に向けての宣伝展開についても、担当編集さんと直接相談しながら進められています。今作では『冴えカノ』と同じかそれ以上に風通しが良くて、仕事がしやすくなっていると思います。「強くてニューゲーム」みたいな感じというか。
――そして現在、アニメでもチャレンジされているというお話ですが……?
深崎:まだ詳しくお話することはできませんが、『冴えカノ』のアニメでお世話になった亀井監督をはじめ、信頼してるスタッフさんたちと制作しているオリジナルアニメ作品でキャラクター原案を担当させていただいています。
オリジナルのアニメ作品での展開は難しい部分が多いと思いますが、それも新しいチャレンジということで力を入れてます!


――ラノベとアニメのキャラクターデザインでは、どんな違いがありますか?
深崎:ラノベからのアニメ化に比べると、オリジナルアニメの方が制約が多いかもしれません。監修する人数も多いですし、作画のカロリーを減らすためにできるだけシンプルなデザインを求められるので、そういった点ではすごく勉強になりました。
デザインを複雑にすると、映像での動きに影響が出てしまうんですよね。特に今作はサーカスがテーマになっているので、それはもう、たくさん動かさないといけませんし(笑)。もちろん、ラノベのデザインでもカロリーは減らすようにデザインしてるのですが、オリジナルアニメの場合はもっと気をつけないと……という感じです。
――どんなアニメになっているのか、今から期待が膨らみます! それでは最後に、『メクリメクル』の読者へ向けて、メッセージをお願いします。
深崎:『メクリメクル』で深崎のことを知った方には、絶賛展開中の『あそびのかんけい』や、今後放映される新作のオリジナルアニメで、今年~来年の露出が増えると思いますので、ぜひとも注目していただけるとうれしいです。
『冴えカノ』の頃からライブ感を大切にしていて、ラノベの場合だったら1巻ごと、アニメだったら放映中での展開でサプライズを提供できるように心がけています。あとでまとめて……とは言わず、是非リアルタイムで楽しんで、そして応援していただけるとモチベーションにつながります! これから展開される『メクリメクル』含め今後ともよろしくお願い申し上げます。

取材・文●瀧田伸也

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