第31回電撃小説大賞 受賞作特集

第31回電撃小説大賞の受賞作が、2025年4月より電撃文庫、メディアワークス文庫、電撃の新文芸から順次刊行されています。
過去に『アクセル・ワールド』『86 ―エイティシックス―』『姫騎士様のヒモ』など、だれでも知っているような大ヒット作品を輩出した本コンテスト。
今回も異能バトルにラブコメ、ロードムービーに青春小説など、幅広いジャンルから名作の予感を感じさせるの作品たちを送り出していきます。
そんな注目の受賞作の数々を、選評を添えてご紹介いたします。 お見逃しなく!
・2024年4月10日締切/2024年11月10日受賞作発表
・応募総数3819作品
・選考委員:電撃文庫編集部(電撃文庫編集長 阿南浩志)、メディアワークス文庫編集部(メディアワークス文庫編集長 遠藤充香 )、電撃の新文芸編集部(電撃の新文芸編集長 荒木人美) 特別選考委員:川原 礫(作家 『アクセル・ワールド』『ソードアート・オンライン』など)
大賞
選評:
電撃文庫的異能バトルの遺伝子というものがあるとすれば、本作はその正当後継者と呼べる内容だと感じています。
あらゆる物理法則の在り方を「妖精の力」と再定義した独創的な設定。妖精の暴走によって重力反転した「逆さまの街・神戸」という眩暈のするような舞台。何気ない日常を送っていた少年が、救いを求める妖精の少女と出会うことによって生まれる壮大な逃避行。絶体絶命な状況下にあっても折れない主人公の心意気。シリアス一辺倒ではなく、絶妙な塩梅で配置されたコミカルで愛らしい会話劇。原稿を読みながら「こういうの読みたかったぜ!」と何度も喝采を送りました。
また本作の異能設定の根源となるのは「再定義された物理現象」ですが、サイエンスに対する解釈も要点は抑えながらも頭でっかちにはなりすぎず、良い意味で勢いとアクション重視で爽快感のあるエンタテイメントに昇華させている点も素晴らしいです。
金賞
選評:
「世界を救うのに忙しい」と嘯くちょっとイタい同級生、彼女の語る中二病的設定がもしも本当だったら……。そんなネタで始まる本作ですが、このクール系美少女の雲雀がとにかく可愛いです。一見近寄りがたいオーラを発しながらも、実は素直で健気で頑張り屋さんでさみしがり屋。誰にも境遇を理解してもらおうとせず孤高を貫いていたヒロインが、主人公の嘘告白から始まった恋人関係に徐々にほだされていく描写が、とてもいじらしいです。
そしてラブコメであると同時に世界を救うお話でもあり、あくまでも傍観者でしかなかった無感動系の主人公がヒロインを救うために大きな犠牲を払う、という展開も熱く描けています。ラブコメとして読むかあるいはセカイ系として読むかは意見が分かれるところかもしれませんが、とにかく雲雀が可愛いということには太鼓判を押します!
銀賞
選評:
個性の塊。おそらく読んだ人の多くが、このような感想を抱くはず。キャラも世界観も常軌を逸していて、これを魅力的と捉えるか洗練されていないと捉えるか、おそらく賛否があるのではないでしょうか。ただ自分としてはこの出鱈目で愉快な聖女とチンピラのおバカロードムービーをもっと眺めてみたい、という思いで高く評価させていただきました。
とにかくヒロイン・主人公のコントのようなバカ騒ぎが印象に残る作品ですが、没入しやすい物語の構成・設定や伏線の仕込み・感情のセットアップも丁寧に練られており、コメディでありつつドラマとしても読みごたえがあります。
売れ線といった要素からは遥か遠く、突っ込みどころも満載、しかしそんなことは一切気にせず我が道を進んでほしいと思わされた作品です。
メディアワークス文庫賞&川原礫賞
川原 礫先生 選評:
この物語の主要な登場人物たちは、ほぼ例外なく心に傷を抱えている。その傷をつけたのは背信であり復讐であり挫折であり虐待であり搾取であり、つまるところ多種多彩な地獄がそこかしこにちりばめられているのだが、しかし読み味は驚くほど明るく乾いていて、陰惨さを感じさせない。
そのバランスを成立させているのは、軽やかなリズムと的確な表現力を備えた文章だったり、細部のリアリティだったりするのだが(大学漫研の空気感は見事でした)、何より主人公である双子の互いを思いやる気持ち、それだけは何があろうと揺るがないであろうという確信が、圧倒的な破局の予感に立ち向かってページを繰る力を読み手に与えてくれる。物語は先読みを許さぬまま、次々と提示される悲劇の兆しをひらりひらりと掻い潜っていく。
いくつか気になる箇所がないではないが、この滑走感、バランス感はもはや作家性の域とすら言える。非常に面白かったです
選評:
美しいことばかりではない歪な現実を、どこまでもリアルに、それでいてとてつもない眩しさで描いた感性が光る青春小説。
双子の兄妹を通し、徹底してドライな語りで紡がれていく、完璧ではない家族と、彼らの理想と現実と希望と絶望。人をままならなくさせる「愛すること」を、世間や物語のステロタイプと巧みに距離をとりながら、見事に小説としてまとめあげた抜群の感性に、はっきり言って痺れました。新たな可能性を確信した、才気あふれる期待の物語です。
メディアワークス文庫賞
選評:
同じ一日をループし続ける少女・ひまりと、そんな彼女に恋をした浪人生・渚沙の恋。やがて彼女を忘れてしまう渚沙が、彼女の世界に居れるのはたった二十二日、という時限的な要素が効果的にあしらわれ切なさが加速していく展開とあいまって、没入感のある完成度の高い王道ラブストーリーになっていました。
人生のきらめきや恋の尊さを物語随所に散りばめられた感動作として、多くの読者の方々に愛される予感でいっぱいです。
電撃の新文芸賞
選評:
浮島に住み、外の世界に憧れる少女が、地上への冒険を経て成長していく物語。
恐れや偏見なく新しい世界に飛び込むカフカの純粋さ、柔軟さに勇気づけられ、いつの間にか応援している自分に気づかされた。外の世界を見たからこそ、故郷の愛おしさに気付く描写も秀逸。戦争の悲惨さというテーマも内包するが、丁寧で優しい筆致も相まって、世界の美しさを思い出すことができる。周囲の大人たちが、カフカをきちんと導きサポートすることで大団円となるのも、納得感のある美しい構成だった。
年齢問わず「心に染みる何か」を感じられる感動作。